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飛天
またブラック。Ｉ皇子登場ですがいいとこなしです。（汗）
「来ないで。私の心はメンフィスのものよ。貴方が何をを言おうと私はメンフィスのものだわ。」
「何故だ？姫。私のどこがファラオに劣る？私はヒッタイトの世継ぎの皇子、いずれこの国を統べるもの。
この私がエジプト王に劣るとは思わぬ。」
「地位や身分など関係ないわ。」
「では何が？私の何処がファラオに劣るのだ？」
「貴方ほど令名高いと諸国に知れた人でも分からないことがあるのね。私にとって大切なのは、誰に愛されたかでは無いの。
私が誰を愛したかが一番大事なのよ。」
「・・・・・ならばファラオを殺す。そなたにとって一番大事なものがこの世に存在しなければ、そなたは私のものになる。」
「そんなことをしたら私が貴方を殺すわ。どんなことをしてもあの人を殺させたりしない。私の心は二人を愛せるほど広くないの。」
言い切ったその瞳。見たこともない意志に輝くその瞳。
「どうやって？此処はトロイの都、まわりにそなたの味方は誰も居らぬ。逃げ出すことは不可能だ。」
「こうやってよ。」
王妃が体当たりしてきた。
背を向けて逃げるのかと思った皇子は不意を突かれた。
いや、正確には体当たりするとみせかけて、エジプト王妃はヒッタイト皇子の腰から短剣を奪った。
それを自らの白い胸に突きつける。
「止すが良い。そなたはまだヒュブノスの眠りから醒めたばかり。そんなものを持っては・・・」
「私に何か術を仕掛けたのね。メンフィスならそんな卑怯なことをしたりしないわ・・・・・
貴方がメンフィスに劣るのは其処よ。」
「愛しているからだ。どんなことをしても欲しいと思ったから・・・」
「ああ、やっぱり分からないのね。私は貴方を愛していない。オロンテスの森でのことは感謝している。でもそれだけ・・・近寄らないで！」
「止せ！！止めてくれ！！」
「メンフィス・・・御免なさい。貴方の足手まといにはなりたくないの。最後の挨拶だけは言わせて・・・メンフィスッ！！」
白い胸に忌まわしいものが刺さる。それなのにエジプト王妃は笑っていた。
見ていることしか出来なかった視線の先で、エジプト王妃は酷くゆっくりと崩折れる。
赤い唇が血の気を失って震えながら何か呟いている。
「・・・・・あ・・・い・・して・・・・・かえる・・わ・・・あなた・・・・・の・・・・」
ごぼりと血を吐いて王妃が事切れる。開いたままのその瞳に、最後までヒッタイト皇子の姿は映っていなかった。
声にならない絶叫を上げて亡骸に駆け寄り、まだ暖かい肢体を掻き抱こうと手を伸ばす。
その手は何かに弾かれた。
白い鳥が翼を広げ、威嚇するように高い声を上げていた。
この部屋にこんな大きな鳥はいないはず。呆然と立ちすくむ皇子を見もせず、鳥は翼をはためかせて大空へと飛び立ち、南へ向かって飛んでいった。
後にはただ、ヒッタイト皇子妃になることを拒絶し、エジプトの王妃として死んだ女の冷えた亡骸が横たわっているだけだった。
やがてどれほどの刻が過ぎたのか。
ヒッタイト皇子はエジプト王に使者を遣わし、エジプト王妃をお返ししたいと申し入れた。
亡骸は清められ、エジプト王妃の衣装で横たわる。
微笑んだその顔は、どんなに閉じさせようとしても青い瞳を開いたままだった。
まるでエジプトをこの目で見ようというように。毅然と死んだ自分を誇るように。
そしてヒッタイト皇子とエジプトのファラオが並んで王妃の亡骸に向かい、ファラオがその掌で瞳を閉じると
安心したかのようにその瞳を閉ざした。
ファラオも王妃も、最後まで皇子を見ようともしなかった。
そうだ。お互いの瞳には、最初から最後までお互いの姿しか入らない。お互いの心には、最後までお互いへの愛以外なかったのだ。
そしてエジプト王妃はその言葉通り、ヒッタイト皇子を殺したのだ。
愛しい女を失った男が二人、後に残される。
ひとりは何もかも捨てて、女を捜し、そして旅立った。
もうひとりは殺された心を抱えたまま、一生を戦いと孤独のうちに送ったという。
ＥＮＤ
このお話は、某サイト様の王妃が毅然としていて激ツボだったため、
お願いして設定をお借りして出来たものです。
ｐｉｒａ様、何時も有り難うございます。
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